歯胚基底膜は基底板と、これに付随する微細線維層より成る。基底板は直径約4nmの紐状構造(strands)が不規則な網目状配列を呈している。微細線維層は直径8〜15nmの中空を有する管状の構造(basotubules)と、これらの間を満たすstrandsの網目構造により構成される。免疫細胞化学的には、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが基底板および微細線維層に局在してる。以上、歯胚基底膜はIV型コラーゲン分子が互いに連なってネットワーク状構造を形成し、これにラミニンとヘパラン硫酸プロテオグリカン分子が組み込まれ複雑な網目状構造を構築することが明らかにされた。また、basotubulesにアミロイドPコンポーネントが局在していることから、これが構造のみならず組成的にも他の結合組織内に分布するmicrofibrilsと相同が高いことを示している。この他、微細線維層にはフィブロネクチンも局在しており、線維層の発達につれて増加する。 ところで、象牙芽細胞の分化には基底膜の存在が重要であると言われている。実際、象牙芽細胞の分化に先立ち歯乳頭細胞の突起がしばしば基底膜線維層内に侵入する。それに伴い細胞密度の高まりと細胞長の伸長が開始し、やがて象牙芽細胞へと分化する。これは、基底膜による細胞突起の接着・補足と、細胞の不動化が分化の第一ステップとして重要であることを示唆している。高分解能電顕観察で、細胞膜とbasotubulesとを直接連結する径1.5〜3nmの極めて細い線維構造を認め、これはおそらくフィブロネクチン分子に相当すると思われる。 一方、内エナメル上皮近傍に分布する歯乳頭細胞にも基底膜成分が局在することが観察される。これの意義に関しては現在検討中であるが、おそらく内エナメル上皮基底膜の構築に際して素材の一部として供給されるか、あるいは歯牙形成に関連して細胞分化に重要な機能の一端を担っているものと推測される。
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