1.歯胚基底膜は基底板と、これに付随する微細線維層より成る。基底板は直径約4nmの紐状構造(strands)が不規則な網目状の配列を呈している。微細線維層は直径8〜9nmの中空を有する管状の構造(basotubules)と、これらの間を満たすstrandsの網目構造により構成される。 2.免疫細胞化学的には、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが基底板及び微細線維層に局在する。以上、歯胚基底膜はIV型コラーゲン分子が互いに連なってネットワーク状構造を形成し、これにラミニンとヘパラン硫酸プロテオグリカン分子が組み込まれ複雑な網目状構造を構築することが明らかにされた。 一方、内エナメル上皮の近傍に存在する歯乳頭細胞の細胞膜に基底膜構成成分が局在していた。特にエナメル上皮基底膜側に面する領域の細胞膜に高頻度で認められ、しばしば粗面小胞体腔にも反応産物が沈着していた。これは、基底膜の形成に内エナメル上皮細胞と共に歯乳頭細胞が積極的に関与していることを示唆している。 3.微細線維層にはフィブロネクチンも局在しており、線維層の発達につれて増加する。これと同調するようにエナメル蛋白も微細線維層に局在し、その後、形成中の象牙質内に斑状塊として認められる。時に、フィブロネクチンとエナメル蛋白は共存して象牙芽細胞突起や細胞体に沿って出現する。すなわち、エナメル蛋白は、それ自体で、あるいは他の細胞外マトリックス成分と協調して象牙芽細胞の分化に機能していることが推測された。 今回の研究により歯胚基底膜の構造と組成が分子構造レベルで明らかとなった。今後、同基底膜の機能について分子生物学的手法あるいは歯胚培養系を用いて解析し、歯牙形成における基底膜の意義について考察する必要があろう。
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