研究概要 |
脊椎動物におけるアメロジェニン遺伝子の分布とその発現を明らかにし、本蛋白とエナメル質進化との関連を探求する目的で、本年度はヒト・アメロジェニン遺伝子第6エクソン部位に対応するcDNAプローブ(426bp)を用い、サザン・ハイブリダイゼーション法によりアメロジェニン遺伝子の脊椎動物の各綱(class)における分布を観察した。材料に用いた動物は、マウス(哺乳綱)、ニワトリ(鳥綱)、シマヘビ(爬虫綱)、トノサマガエル(両生綱)、ガ-パイク(硬骨魚綱、全骨亜綱)、ウナギ(硬骨魚綱、真骨亜綱)、トラザメ(軟骨魚綱)、クロメクラウナギ(円口綱)、以上の7綱8種類である。これらの動物より肝臓を摘出し、Maniatisらの方法によりゲノムDNAを抽出して制限酵素EcoR IとHind IIIでそれぞれこれを消化・切断して、アガロースゲル電気泳動法により分離したのちcDNAプローブとハイブリダイズさせた。結果としては、EcoR Iを用いた場合はすべての動物においてハイブリダゼーションが観察されたが、Hind IIIの場合ではクロメクラウナギだけが反応しなかった。したがって、クロメクラウナギすなわち円口類については更に検討が必要であると思われるが、今回は一応観察した全種類の動物でハイブリダイゼーションが観察されたことになり、アメロジェニン遺伝子は脊椎動物の全綱に普遍的に分布している可能性が示された。しかし著者およびその強力者によって行われた免疫組織化学的データ(Ishiyama et al., 1994)では真骨魚類、サメ類およびクロメクラウナギではアメロジェニンの反応が検出されなかったことから、アメロジェニン遺伝子は脊椎動物の系統発生学上かなり初期に獲得されたものの、発現したのはガ-パイクのような原始的硬骨魚類の段階になってからであると思われる。来年度はPCR法による本年度の結果の再検討、さらにin situハイブリダイゼーション法による遺伝子発現の比較観察を行う。
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