研究概要 |
【目的及び方法】細胞外基質と細胞基質間接着分子であるIntegrinとの結合部位においてチロシン燐酸化の増大に関与するとされるFocal adhesion-kinase(FAK)の局在の変化を歯胚の形態形成という場で経時的に免疫組織化学的手法を用いて調べた結果を踏まえ、さらにFAKの機能を阻害するチロシンキナーゼ阻害剤が歯胚発生に及ぼす影響を検討する。また、比較の意味でC-キナーゼ阻害剤の影響も検討する。なお、酵素阻害剤の影響は生体内投与および歯胚培養系にて検索する。これらの結果から生体内でのIntegrinの機能つまり細胞分化の制御機構におけるIntegrinの役割を解明し、細胞外基質、細胞接着分子(Integrin)、細胞基質間接着構造から細胞骨格系を介した細胞内へのシグナル伝達との関連を総合的に検討する。 【結果及び考察】免疫組織化学的手法により、FAKは前象牙芽細胞,象牙芽細胞及びエナメル質が形成される直前の分化期エナメル芽細胞以降に発現していたこと。また,エナメル芽細胞の分化に伴う細胞外基質から細胞骨格系への細胞内情報伝達カスケードに関与する蛋白質の局在の変化を検討した結果,FAKの発現以降に基底膜に観察できたLaminin,Collagen Type IVの陽性反応は観察できなくなり、遠位端付近に細胞骨格関連蛋白質(vinculin, α-actinin及びF-actin)の局在の変化が見られたこと。エナメル芽細胞の高さなどの形状が変化し,エナメル質の形成が観察されたことから,エナメル芽細胞の細胞基質間接着構造から細胞骨格系を介した細胞内情報伝達カスケードの成立にFAKの発現が重要であり,FAKがIntegrinを介する情報伝達系の活性調節に関与している可能性が示唆された。しかし、酵素阻害剤(Tyrosin kinase阻害剤、C-kinase阻害剤)による歯胚培養における検索の結果、酵素阻害剤は硬組織形成に大きな変化を及ぼさなかった。通常培養細胞にてチロシンリン酸の阻害効果が高いのは細胞と細胞外基質との接着形成時である。したがって、すでに接着の形成が行なわれているような場合、リン酸化を阻害することができなかったものと思われる。さらにアンチセンスオリゴヌクレオチドによるintegrin合成阻害実験を行った結果、integrinは硬組織形成に関与することが示唆された。
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