生後まもないウサギの長管骨から破骨細胞を分離しガラス面、骨面上で1-4日間培養したものを研究材料に供した。骨面上で分離培養した破骨細胞は形態的にはin vivo状態と同様で骨面側では吸収窩を形成しまたその細胞側では刷子縁と明帯構造が形成されていた。しかしガラス面上で培養したものは刷子縁を欠くもののその他の細胞学的特徴は備っていた。この様な培養細胞の酸性領域を可視化するために50μMの濃度のDAMPを取り込ませた。この種の物質は細胞が生きている時には自由に細胞膜を通過して細胞内外の酸性領域に集積する性格をもっている。細胞を固定するとイオンが自由に移動することができなくなり集積したDAMPにはハプテンとしてのDNP基を含むことを利用して一次抗体として抗DNPでラベルし、次いで二次抗体としてIg-Gと蛍光色素の複合体をラベルして蛍光顕微鏡下で可視化することができた。従来酸性領域を顕微鏡で可視化するために試薬としてアクリジンオレンジが用いられてきたがこれらは生体細胞のみに応用可能でありまた細胞外の酸性領域を観察するには不敵であった。DAMPは細胞を固定した後可視化できることまた細胞外の酸性領域の証明も出来ることがわかった。ガラス面上で培養した破骨細胞では細胞内にのみ蛍光部位が証明された。骨面上で培養された破骨細胞では細胞内のみならず吸収窩に相当する細胞外の部位も強い蛍光を示した。ガラス面上で培養した細胞は細胞質内によく発達した小管構造を有しこの構造が酸性領域であると考えられ、細胞内の酸性領域は骨面上で培養したものより広範囲に蛍光強度も強いものであった。このような蛍光観察は通常の蛍光顕微鏡でも可能であったが共焦点レーザー顕微鏡ではさらに精度を高めて解析することができた。破骨細胞細胞内外の酸性化はプロトンポンプATPaseを介して生じると考えられておりこの種のATPaseの特異的な抑制剤であるバフイロマイシンは明らかにDAMPによる蛍光強度を減弱させた。また炭酸脱水素酵素の抑制剤であるアセトアゾラミドの添加によっても酸性領域の蛍光強度が減弱した。この様な所見は脱炭酸酵素で生じるプロトンとプロトンポンプATPaseの関係を示すものといえる。平成7年度の研究計画として光学顕微鏡レベルの酸性領域の顕微鏡による可視化という目標はおおむね達成された。平成8年度では電子顕微鏡による酸性領域の可視化とその定量化の研究につなげていきたい。
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