研究概要 |
唾液腺腫癌の多形性腺腫および筋上皮腫は比較的経験することが多いが、両者の鑑別はしばしば困難な場合がある。両腫瘍の的確な診断を行うためには、多形性腺腫のnonluminal cellおよび筋上皮腫の腫瘍細胞に認められるmyofilamentを比較検討する必要がある。 今回、両腫瘍の鑑別診断の目的で多形性腺腫14例、筋上皮腫5例について、muscle-specific actin(MSA)、cytokeratin 14(CK14)、GFAPおよびvimentin抗体を用いた免疫組織化学的検索をmethanol固定標本にて行い、同様に免疫電顕的検索を行った。MSAは正常筋上皮細胞のマーカーとして有用であり、多形性腺腫のnonlumincal cellでは10/14例(71%)、筋上皮腫の腺瘍細胞では4/5例(80%)に陽性反応を認めた。しかし両腫瘍細胞の5%以上に陽性反応を認めたものは多形性腺腫5/14例(36%)、筋上皮腫2/5例(40%)で、陽性反応を示した全症例の約半数が腫瘍細胞の5%未満に陽性反応が認められたのみであった。免疫EMでmyofilamentにcolloidal goldが観察されたのは多形性腺腫2/6例(33%)、筋上皮腫1/2例(50%)であった。またCK14は多形性腺腫で7/14例(50%)、筋上皮腫2/5例(40%)で、腫瘍細胞の10-70%に陽性反応を示した。一方vimentinおよびGFAPは正常筋上皮細胞に陰性であるが、vimentinは多形性腺腫、筋上皮腫共に全症例で腫瘍細胞の90-100%に陽性反応がみられ,GFAPは多形性腺腫13/14例(93%)、筋上皮腫全症例で腫瘍細胞の10-100%に陽性反応がみられた。 本研究より、MSA、CK14は筋上皮細胞の有用なマーカーとして考えられてきたが、5%以上のnonluminal cellおよび筋上皮腫の腫瘍細胞に陽性反応を示すのは全症例の1/3程度であった。これらに対しvimentinやGFAPはほぼすべての腫瘍細胞に陽性反応が認められ、MSA、CK14比較してさらに有用なマーカーとなり得ることが示唆された。さらに筋上皮細胞が腫瘍化する際の分化により、正常では認められないvimentinやGFAPが陽性反応を示すことの原因は不明であるが今後これらのマーカーの検索が必要である。
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