病的石灰化の発現を追求する目的で、ラット臼歯歯胚を用い、歯科用ファイルで穿刺による器械的外傷を与え、歯牙硬組織の形成障害に関する実験的研究を行っている。平成7年度はとくに発育段階の異なる歯胚すなわちエナメル質形成開始直前、エナメル基質形成開始期、エナメル基質形成期、エナメル質石灰化期の4段階の歯胚にそれぞれ外傷を加え、その予後におけるエナメル芽細胞や象牙芽細胞などの損傷の状態や硬組織形成傷害の程度について光顕的並びに走査電顕的に比較検索した。 その結果、エナメル質形成直前の時期の外傷においては、エナメル芽細胞や象牙芽細胞の傷害に伴い、エナメル質では限局性のエナメル質欠如が明瞭に出現した。一方、象牙質では一時的に不規則象牙質が形成されるが、象牙芽細胞の再生に伴い、徐々に正常な象牙質が形成された。エナメル基質形成期の外傷では、硬組織形成障害が広範囲に出現した。外傷以前に形成されていた一層の薄いエナメル質は存在するものの、外傷後にはエナメル質がほとんど形成されず、また象牙質でも外傷直後より象牙芽細胞の象牙質からの剥離が生じ、その部では長期にわたり不規則象牙質の形成が出現した。さらに外傷部位から離れた歯頸部側でもエナメル質や象牙質の形成障害が生じ、歯胚に加わった器械力による歪が原因と考えられた。エナメル質石灰化期における外傷では、エナメル質や象牙質の形成傷害は一見明瞭でないが、外傷部を中心に広範囲にエナメル質の石灰化不全がみられ、この時期の外傷はとくにエナメル質の石灰化に影響を与えることが伺われた。さらに、歯頚部側でもエナメル質や象牙質の形成不全が出現し、ときに骨性癒着、歯胚の捻転、萌出障害もみられた。以上のことから、歯胚の外傷の時期によって、硬組織形成への影響が著しく異なることが明らかとなった。平成8年度は、これら硬組織形成障害の発現について、さらに詳細な検索を行う予定である。
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