平成7年度および8年度に科学研究費の助成を受け、標記の課題について研究を行った。本研究は歯周疾患関連細菌、特にPorphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼの病原作用を調べ、疾患との関連性を明らかにすることにある。 実験はP.gingivalisプロテアーゼの刺激によるヒト培養線維芽細胞の応答、特に炎症関連サイトカイン遺伝子発現誘導を調べた。P.gingivalisプロテアーゼは菌の液体培養上清からゲルろ過および各種イオン交換クロマトグラフィーにより得た。線維芽細胞を処理するプロテアーゼの濃度が3μg/ml以上の時、細胞は数時間以内に円形化し、プレートから剥離してやがて死滅することが確認された。一方、プロテアーゼの濃度が1〜2μg/mlの時は細胞の形態変化は緩やかにおこったが、死滅するまでには至らなかった。また、この条件で培養された細胞からtotal RNAを抽出してRT-PCRを行った結果、IL-IβおよびIL-6の遺伝子が発現されている事が確認された。更にnorthern blottingによる解析の結果、線維芽細胞はcollagenase遺伝子も発現していることも明らかにされた。これらの成績は、P.gingivalisが産生するプロテアーゼは宿主依存的な炎症発現と組織破壊に関与している事を強く示唆するものである。これまでにプロテアーゼの病的役割として主としてタンパク分解や破壊による組織破壊や侵襲性増大が指摘されてきたが、本研究は微生物プロテアーゼが宿主機能を巧妙に修飾刺激し、これが宿主の機能障害を招来させ、結果的に病態の増悪や進行に一端を担っているものと思われる。この知見はまったく新たに見いだされたものであり、微生物プロテアーゼの病原性解析に一石を投じるものであり、さらなる追求が求められる。 本研究遂行のため研究費を助成頂きましたことに深く感謝いたします。
|