高齢になると味覚感受性が低下することがヒトの官能検査および哺乳動物の味神経応答の記録から示されている。味神経応答の低下には味細胞における応答性変化と求心性シナプスにおける伝達効率低下などの要因が考えられる。そこで、味細胞の味覚応答性が加齢によって変化しているかどうかを明らかにするため、2〜3ケ月の若齢マウスと14ケ月以上の高齢マウスとで味蕾細胞の味覚応答性と膜の性質を比較検討した。味覚応答は味蕾構造を保持した状態で非侵襲的に単一細胞の電気的変化を記録できる膜電位感受性蛍光色素を用いた光学測定により検討し、膜のイオンチャネルの解析にはwhole-cellパッチクランプ法を用いた。膜電位感受性蛍光色素としてRH795あるいはRH155を細胞膜に取り込ませ、それぞれ530nm、710nmの励起光を照射して膜の脱分極に伴う発光あるいは吸光の増大を二次元画像としてとらえ解析した。 パッチクランプ記録により、高齢マウスの味細胞膜には若齢と同様に電位依存性のNa^+チャネルとK^+チャネルが存在しているが、Na^+電流の振幅は若齢に比較してかなり小さい傾向にあることがわかった。このことは、味刺激により発生した味細胞先端突起受容膜部の脱分極が基底側のシナプス部まで伝えられる際の効率が低下している可能性を示すと考えられる。また、若齢マウスの茸状乳頭味蕾を含む剥離上皮標本からの光学計測では、食塩、グルタミン酸ナトリウムやD-フェニルアラニンなどの味溶液を味孔部に限局して流出させると一部の味蕾細胞に緩徐な脱分極が発生することが観察された。高齢マウスでは、乳頭数は変化していないものの、脱分極応答を示す細胞数とその振幅が減少している傾向がみられた。 以上の結果は、高齢マウス味蕾細胞に特徴的な多数の空胞あるいは老化物質リポフスチン顆粒の集積の観察とともに、味細胞膜に機能低下が生じている可能性を示唆し、高齢動物における味覚応答性変化は受容器の段階で生じていると推察された。
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