肝細胞増殖因子[HGF]は、種々の上皮細胞や血管内皮細胞、血液幹細胞などの間葉系細胞の増殖および分化に関わっている。これまで我々は、(1)HGF遺伝子がマウス胚芽において軟骨形成部位周辺に発現すること、(2)HGFが培養関節軟骨細胞の増殖、運動性、プロテオグリカン合成を促進することを見いだした。これらの知見は、骨格形成機構におけるHGFの重要性を強く示唆している。 そこで本研究では、軟骨内骨化におけるHGFの生理的役割の解明するために、(1)4週齢のウサギ肋軟骨成長より成長軟骨細胞を分離して、成長軟骨細胞の増殖、成熟、肥大化および石灰化の各分化段階におけるHGFの作用、ならびに(2)in vivoの軟骨組織におけるHGF及びHGF受容体の発現を調べた。 HGFは、成長軟骨細胞の増殖および基質合成を若干促進した。一方、軟骨細胞の肥大化(最終分化)を抑制した。このことは、形態的にも、肥大軟骨細胞のマーカーであるtype X coll agenおよびアルカリフォスファターゼ発現抑制としても観察された。さらに、成長軟骨細胞の石灰化誘導を抑制した。しかし、この抑制効果は一過性で、HGF存在下でも成長軟骨細胞は、ゆるやかに最終分化した。また、すでに肥大化した軟骨細胞に対してHGFは、細胞の分化形質に影響を与えず、その後の石灰化も抑制しなかった。In situ hybridizationおよび免疫組織学的検索よりHGFは肥大軟骨細胞層に局在することが判明した。以上の結果よりHGFは、肥大軟骨細胞で産生されて成熟軟骨細胞に作用する、成長軟骨細胞の最終分化制御因子であることが示唆された。
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