近代化が進展するにつれて食生活の色々の面で変化が生じている。その一つに強度の咀嚼を必要としない食餌の増加が見られる。柔軟食は咀嚼能力の低下、引いては発達段階にある子供の脳機能への悪影響にたいする懸念が持ち上がってきた。離乳直後(3週間令、約40g)の雄SDラット2腹分の20匹を2群に分け、それぞれオリエンタル・イ-スト社製の固形飼料と粉末飼料にて8ヶ月飼育して4ヶ月令と10ヶ月令で生理学的実験を行なった。記憶に関係すると信じられている海馬脳切片を作製して電気生理学的、組織学的検討を行なった。結果は(1)主に測定器の特性の上で細胞体のみを反映する膜電位、膜抵抗は4ヶ月令と10ヶ月令とも有意差のある変化は観察されなかった。(2)10ヶ月令の固形飼料飼育群の細胞内記録で、複数の活動電位が記録でき、シナプス部位で複雑な電位が記録出来たが、粉末飼料群では単純なシナプス反応であった。(3)記憶、学習に関係すると考えられているシナプス長期増強(LTP)は粉末飼料群の方が優位であった。しかしこの結果は報告された学習結果と異なるが、LTPと学習には異論がある。(4)ルシファー・イエロ-細胞内染色で固形飼料群からのCA1錐体細胞の樹状突起に複雑な形態が観察された。(5)電気泳動的に与えられた反応から多シナプスの形成によるシナプス領域の局限の存在が固形飼料群飼育群に顕著に観察された。今回の研究結果は、強度咀嚼によって脳循環の促進、大脳皮質の温度上昇に関する報告を考えたて、明らかに固形飼料飼育は脳の発達を促進させ、豊富なシナプスを形成し、多くの情報処理に有利であると考えられる神経構築についての情報を提供してくれた。強度な咀嚼はこ記憶力の減退し始めた中年に於いても、空間認知、行動の獲得など記憶の保持を若干のレベルにまで上げる事ができる、痴呆発現の遅延に荷担するかも知れない。
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