研究概要 |
ラット顎下腺発癌実験および導管結紮実験の2つの実験系を用い、各々の顎下腺における増殖細胞と免疫組織化学的変化について検討した。 発癌初期に、DMBA/スポンジ周囲に認められる小細胞塊および残存導管の核に約20%のPCNA陽性像、^3H-thymidine取込み像を認めた。また、小細胞塊は排泄導管細胞に発癌遺伝子産生蛋白のC-erbB-2が陽性であった。同時期、顆粒管では、EGFが陰性化し、K8. 12、S-100蛋白が陽性化し、少数の増殖細胞が現れる。発癌剤埋入後4〜6週でDMBA/スポンジは角化嚢胞様上皮に被包され、その組織学的所見や細胞骨格の状態は白板症のそれと類似しC-erbB-2が陽性で、基底細胞ではPCNA陽性率が約30%であった。12週以降で、扁平上皮癌を認め、増殖細胞は基底層、傍基底層に認められ、PCNA陽性率約40%で、角化部以外の腫瘍細胞にC-erbB-2が陽性であった。 各種のras, fosなど他の癌関連遺伝子産生蛋白の陽性所見は現在まで得られていないが、実験動物との交差反応などの問題もあり現在さらに検索中である。 導管結紮後の顎下腺では、導管様構造物でのPCNA陽性率が上昇し3日目で約50%に達し、徐々に低下するが21日目でも約10%の陽性率を示した。一方、対側顎下腺では結紮後3日目をピークとして1週間後まで腺房細胞に増殖が認められた。 これらの所見より、唾液腺に侵害刺激が加わった場合には導管系の細胞が増殖を示すが、結紮された反対側の顎下腺のように機能の亢進状態では腺房細胞に増殖が認められると考えられた。また、ほぼ全ての実験動物で扁平上皮癌が発生する理由として、発癌の初期から確認されたC-erbB-2がEGF receptorと類似し、顆粒管に多く含まれるEGFとの関係が示唆された。
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