ヒトおよびラットの歯髄あるいは根尖病変部に対し、神経線維と免疫相当細胞との局在の関連を免疫組織化学的に検索し、以下の知見を得た。 1 ヒトおよびラット正常歯髄における神経線維ならびに免疫担当細胞(マクロファージおよびクラスII抗原陽性細胞)の三次元的位置関係を、蛍光抗体二重染色を施したのち共焦点レーザー顕微鏡で観察し、象牙芽細胞層近傍を中心に、両者が極めて近接して存在することを見出した。 2 露髄開放処置によりラット臼歯に歯髄炎および根尖病変を惹起させたところ、歯髄においては露髄部近傍、また根尖病変部では根尖孔近傍に形成された膿瘍の周囲において、神経線維ならびに免疫担当細胞(マクロファージおよびクラスII抗原陽性細胞)が極めて近接して存在することを、酵素抗体二重染色法により見出した。 3 ラット実験齲蝕の誘発法を確立するとともに、この手法を用いて歯髄における免疫担当細胞と齲蝕病変の経過との関連を追究したところ、象牙質齲蝕病巣と交通する象牙細管の歯髄側開口部の直下において、マクロファージおよびクラスII抗原陽性細胞が早期より高頻度に集積を示すことを確認した。 4 象牙質齲蝕を有するヒト抜去歯について、歯髄中に存在する各種免疫担当細胞(HLA-DR陽性細胞、factor XIIIa陽性細胞、マクロファージ、Tリンパ球)の動態と、神経線維の分布構築の変動との関連を検索したところ、免疫担当細胞、神経線維とも、象牙質齲蝕病巣と交通する象牙細管の歯髄側開口部の直下において、しばしば密度を増加させていることを確認した。 以上はいずれも、歯髄疾患あるいは根尖歯周組織疾患の成立過程において、免疫系・神経系間の相互作用が関与していることを示唆する形態学的所見と考えられる。
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