中林によって提唱された樹脂含浸層の概念は広く知られており、接着剤の浸透性がこの含浸層の形成に強く関与していることが世界でも常識となった。ところが、含浸層の存在によって短期的な接着性が向上することは明かではあるが、含浸層が接着の長期耐久性にどのような影響をもたらすかは現在のところ明らかではない。また、修復物辺縁に漏洩が起こった場合、接着界面、特に含浸層への水分の透過によって、接着剤層の劣化が引き起こされ、長期的には接着の破壊が起こることが想像される。しかしながら、生体内における接着界面の劣化に関する検討を行った報告は未だに見られないのが現状である。 本研究の目的は、ボンディングシステムを用いて生活歯に窩洞形成後充填しその接着界面に存在する漏洩の経路の変化を経時的に観察すると共にMicro tensile bond testを用いて窩底部の接着性の経時的な変化を咬合力や口腔内環境の影響を加味して検討することにある。 平成7年度は、in vitroの観察・試験を中心に検討を行った。先ず、抜去歯を用いて辺縁漏洩の経路を検討した結果、含浸層内には明らかに漏洩の経路となる欠陥が見出された。このような欠陥が長期的にどのような経緯を示すかについては現在生活歯に接着操作を行い平成9年度に検討する予定である。次ぎに、窩洞内面における接着についてMicro tensile bond testを行って検討したところ、特に窩底部象牙質に対する接着性はレジンの重合収縮・象牙質の深さの影響を受け引っ張り接着強さは極めて低いものであることが判明した。そのため、生体内で窩洞形成を行い窩底部象牙質に対する接着性を検討することは困難であることが懸念されたため、生体内では比較的平坦な面を用いて検討することにした。この結果についても平成9年度に検討する予定である。
|