中林によって提唱された樹脂含浸層の概念は広く知られており、接着剤の浸透性がこの含浸層の形成に強く関与していることが世界でも常識となった。ところが、含浸層の存在によって短期的な接着性が向上することは明かではあるが、含浸層が接着の長期耐久性にどのような影響をもたらすかは現在のところ明らかではない。また、修復物辺縁に漏洩が起こった場合、接着界面、特に含浸層への水分の透過によって、接着剤層の劣化が引き起こされ、長期的には接着の破壊が起こることが想像される。しかしながら、生体内における接着界面の劣化に関する検討を行った報告は未だに見られないのが現状である。 本研究の目的は、ボンディングシステムを用いて生活歯に充填しその接着界面に存在する漏洩の経路の変化を経時的に観察すると共にMicro tensilebond testを用いて接着性の経時的な変化を咬合力を口腔内環境の影響を加味して検討することにある。 平成8年度の研究によって生体内で窩洞形成を行い窩底部象牙質に対する接着性を検討することは困難であることが懸念されたため、生体内では比較的平坦な面を用いて検討することにした。サルの生活歯に象牙質に達する平坦面を形成し、その平坦面に接着性レジンを充填した。試験期間としては1日、180日、360日とし、サルの屠殺後にMicro tensilebond testを用いてレジンの象牙質への接着性の経時的変化を調べた。その結果、接着強さはこの期間を通じて30MPaを維持していたが、接着界面の劣化は経時的に認められた。
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