歯髄組織が損傷を受けると、残存歯髄から新たな象牙芽細胞が分化し修復象牙質を形成する。しかしながら修復象牙質形成における象牙芽細胞の分化誘導のメカニズムに関しては不明の点が多い。そこで、細胞分化と細胞外基質との関連性に着目し、ヒト歯髄細胞における細胞外基質、特にフィブロネクチン(FN)の局在を免疫組織化学的に検索するとともに、直接覆髄後の修復象牙質における局在についても検討を行った。 FNは、ヘルトビッヒ上皮鞘基底膜、歯乳頭細胞周囲に認められ、象牙芽細胞の伸長に伴い細胞間に局在するようになった。さらに成熟した象牙芽細胞においても、その細胞間にコルフの線維様に局在することから全てのステージにわたって存在することが示された。免疫電顕法によりFNは象牙芽細胞の分化の過程、特に伸長、極性化に重要な役割を演じているばかりでなく、このようなコルフの線維様の構造物は象牙芽細胞の特異的形態の維持、ならびに歯髄側への移動のための足場としての役割を果たしているものと考えられる。 水酸化カルシウムを露出歯髄面に応用すると、術後早期に細胞の変性壊死に関連してdystrophic左石灰化層が形成され、この層に一致してFNの局在が認められた。7-10日後、この層に向かう細胞の遊走像やこれに接する紡錘形細胞が観察され、2週後になると、その歯髄側に象牙芽細胞様細胞の配列が認められた。4週後、FN陽性の不規則な基層の下層に細管を有する象牙質が形成された。このようなFN陽性の石灰化層は歯髄細胞が遊走して接着するための足場としての役割を果たしており、歯牙形成における基底膜に相当するものと考えられる。直接覆髄後の修復象牙質形成過程においても、象牙芽細胞の分化誘導に細胞-細胞外基質間の相互作用が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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