これまでに、歯質ハイドロキシアパタイト{Ca_<10>(PO_4)_6(OH)_2}の新たな解析法として、X線光電子分光法(ESCA)を導入し、ヒト健全エナメル質、象牙質から、結晶中のリンと結合した酸素と水素と結合した酸素の原子数の比およびカルシウムとリンの比を求め、各試料間およびエナメル質、象牙質において結晶組成、構造に起因する差があることを確認した。さらに、抜去歯を提供したヒトの齲蝕感受性についても検討した。以上より、簡便かつ分析精度の高い歯質の齲蝕感受性を評価する方法として、ESCAを用いたエナメル質生検法の開発を試みた。 そこで、研磨用のディスクおよびストリップスを用い、微量な歯質(0.1mg)を口腔内から採取し、ESCAにて分析、カルシウムとリンの比を求め、抜去歯のESCAによる分析と比較検討し、高い分析精度であること確認した。しかし、齲蝕感受性を解明するために、重要と思われる歯質結晶中のリンと結合した酸素と水素と結合した酸素の原子数の比を求めことはできなかった。これは、試料採取用のディスクおよびストリップス自体に酸素が含まれていたり、研磨砥粒を付着させる方法や母材の種類に問題があるためである。よって、ディスクおよびストリップスの母材や研磨砥粒に歯質構成元素を含まないものを開発する必要を生じた。現在までに、チタン合金を母材とした試料採取用ストリップスが有望であるという基礎データを得た。さらに、研磨砥粒を母材に付着させず、母材に細かい溝を形成し、試料採取をすることに成功した。本研究では、これらの結果をもとに歯質から非破壊的に試料採取のできるチタン合金ストリップスの開発に着手し、原型は完成したが、チタン合金の加工は、難しく厚さの点で若干の変更が必要であるという結論を得た。今後さらに検討を加え、X線光電子分光法によるエナメル質生検法の完成を目指す予定である。
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