近年、高齢化社会を迎え、咬合・咀嚼が人の健康を維持・増進するうえで、基本的かつ重要な機能のひとつであることが再認識されている。長期にわたり、歯牙を維持し、咬合機能を果たさせるためには、歯科治療において可及的に歯髄を保存することも重要な課題のひとつである。歯内治療における歯髄の全部あるいは一部保存療法として、直接覆髄や生活歯髄切断処置がある。従来より覆髄剤、断髄剤として水酸化カルシウム単味やその製剤が使用されてきた。しかし、水酸化カルシウムの刺激性による望ましくない二次的影響も多く指摘されている。そのため、生体親和性を有する石灰化促進機能が組み込まれた覆髄剤、断髄剤の開発が待たれている。骨形成タンパク質(BMP)は硬組織中に存在し、軟骨や骨組織形成を誘導する成長分化因子であり、その強力な生物学的活性から、各分野において臨床応用が期待されている。本研究において、研究代表者は、BMPを用いて、生物学的に歯髄を活性化して、修復象牙質形成を誘導することを目標として、その基礎実験を行った。その結果、動物実験において、線維状ガラス膜がBMPの支持体となりうることを見い出した。移植後の炎症反応が強いものの、BMPの支持体としては骨不溶性基質(免疫原性を有しているため、臨床には不向き)についで、優秀な支持体であり、これを改良することにより、優れた象牙質形成因子となりうることが明らかになった。さらに、象牙質の石灰化に重要な役割を果たしていると思われるホスホホリンの機能に関してin vitro実験を行い、ホスホホリンのリン酸基が重要な役割を占めているが、脱リン酸をうけた場合には、カルボキシル基とリン酸基の共同作用が重要となることが明らかになった。また、支持体となるコラーゲンに関しては、コラーゲン線維の安定化がホスホホリンの共有結合の安定化につながり、石灰化誘導能を増強させることが明かとなった。
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