外傷歯再植の予後は、再植歯根に残存する歯根膜の量や傷害程度などに影響される。本研究では、再植の予後を良好とするための方法を見い出すためのfirst stepとして、再植歯保存液として用いられる4種の液体のビアスパンTM、滅菌整理食塩水、ヒト安静唾液および牛乳の有用性をヒト歯根膜細胞(PDL細胞)を用いて、細胞内LDH活性、細胞増殖能、細胞の形態および浸透圧の面から検索した。(結果)細胞内LDH活性:ビアスパンTMおよび牛乳を作用させた細胞では高い活性を示した。滅菌生理食塩水を作用させた細胞では、経時的に活性の低下がみられ、ヒト安静唾液を作用させた細胞では最も低い活性を示した。 細胞増殖能:ビアスパンTMおよび牛乳を作用させた細胞は対照とほぼ同様の増殖能を示した。滅菌生理食塩水を作用させた細胞の増殖能はビアスパンTMおよび牛乳よりもわずかに劣っていた。ヒト安静唾液作用時の増殖能は最も低かった。 細胞の形態:ビアスパンTMを作用させた細胞は原形質突起や細胞質がやや縮小する傾向を示した。滅菌生理食塩水では細胞は紡錘形から円形に変化し、一部には原形質突起が消失して、ディュシュ面から剥離するものがあった。ヒト安静唾液を作用させた細胞は円形化を示し、ディッシュ面から剥離する細胞が多く認められた。しかし、いずれの液体も細胞を死滅させるには至らず、ビアスパンTM、滅菌生理食塩水、牛乳を作用させた細胞では、cell sheetの形成が認められた。 浸透圧:ビアスパンTM、滅菌生理食塩水および牛乳は対照に近似した値を示したが、ヒト安静唾液は他の3種の液体および対照よりも低調であった。また、保存液の浸透圧は細胞内LDH活性と細胞増殖能に影響を与えた。
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