荷重負荷は、顎・顔面骨ばかりではなく全身の骨組織の発生・機能維持に対して重要な役割を果たしていると考えられている。骨細胞や骨組織に対する荷重負荷の影響を明らかにする目的で、培養骨芽細胞であるマウスMC3T3-E1細胞の荷重変化の環境での反応を調べた。その結果、荷重分散(クリノスタット回転)培養により培養骨芽細胞の細胞増殖率が抑制されることがわかった。そのため、増殖抑制が細胞周期のどの時期を遅延させているのかを明らかにする目的で、フローサイトメトリーによりDNAヒストグラムを解析したが、明らかな差は認められなかった。そこで、より詳細に検討するためDNA合成阻害剤であるaphidicolinで細胞を処理してG_1/S期で同調させることによって、細胞周期の各期の検出感度を高めた。この同調培養細胞を用いて細胞周期を解析した結果、荷重分散培養した骨芽細胞は、G_1期からS期への移行及びS期の進行速度が遅延することがわかった。また、上皮成長因子(EGF)処理によってあらかじめc-fos遺伝子発現量を高めておいたマウスMC3T3-E1細胞は、荷重分散培養下ではその発現量が低下することが明らかとなった。一方、培養骨芽細胞に荷重を加えた時、すなわち荷重負荷させたときの細胞増殖率、細胞周期および増殖関連遺伝子発現に及ぼす影響を、遠心培養によって解析した。その結果、MC3T3-E1細胞を48時間、30Gの遠心力下で培養すると、静置対照細胞と比較して約13%、また60Gでは約26%の増殖促進が認められた。そこで、荷重分散の場合と同様に細胞周期を同調させた培養細胞を用いて、荷重負荷条件で細胞周期の経時的変化を調べた。このことによって、荷重負荷は培養細胞のS期の進行を促進していることが明らかとなった。また、荷重負荷によって細胞増殖関連遺伝子群の発現量が増加されることがわかった。増殖関連遺伝子の発現量は相対的に低いため、解析はRT-PCRで行った。その結果、c-fos遺伝子は荷重負荷開始10分後に、またc-myc遺伝子は30分後に一過的にその発現量が増加することがわかった。一方、c-junやp53遺伝子発現量は一定であり、対照遺伝子として用いたG3PDHと変わらなかった。荷重変化によって、培養骨芽細胞の増殖率や細胞分裂周期の特にDNA合成期(S期)、また増殖関連遺伝子の発現が変化が引き起こされることは大変興味深く、細胞レベルにおける荷重または重力感受の機構解明を解明するために、さらに詳細に研究を進めてゆきたいと考えている。
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