下顎顎堤の吸収が進んだ上下顎無歯顎者に通法に従って全部床義歯を製作した。義歯調整終了約1ヶ月後義歯を回収し、上下顎義歯の臼歯部咬合面を咬合接触が検知可能な金属咬合面に置換した。約1.5Vの直流電流を上下金属咬合面に通電し、咬合時の電圧に達したものを咬合接触と見なした。また、シロナソグラフを用いて下顎全部床義歯切歯部の運動を測定した。被験食品としてカマボコ、ニンジン、ピ-ナッツを用いた。計測項目は、顎運動に関して咀嚼回数、咀嚼周期、咬合接触に関して、咬合接触時間、咬合接触回数、咀嚼回数に対する咬合接触回数の比(以下、咬合接触率)、各測定部位における咬合接触開始の時間差(以下、time lag)とした。続いて、下顎全部床義歯を軟質裏装材(クレペ-トドウ)にて裏装し(以下、S Type)、同様の計測を行った。通法により製作した義歯(以下、Control)におけるデータと比較検討したところ、1.S Typeでの咀嚼回数は、Controlに比べカマボコでわずかに増加、ニンジン、ピ-ナッツで減少する傾向を示した。2.S Typeの咀嚼前期における非咀嚼側大臼歯部の咬合接触時間は、Controlに比べ全被験食品において有意に短い傾向を示した。3.S Typeの非咀嚼側における大臼歯部と小臼歯部とのtime lagは、Controlに比べ全期間短い傾向を示し、非咀嚼側における義歯の動揺が、S Typeの方が小さいことが示唆された。さらに、咀嚼側小臼歯部で接触のみられたカマボコ右咀嚼の前期および中期において、非咀嚼側大臼歯部と咀嚼側小臼歯部のtime lagが、S Typeの方が小さく、S Typeの方が動揺が少ないことが示唆された。以上のことから、下顎顎堤の吸収が進んだ上下顎無歯顎者の全部床義歯に軟質裏装材を使用すると、義歯の動揺が少なくなり軟質裏装材の利用が義歯装着者の咀嚼機能に有効であることが示唆された。
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