研究概要 |
チタン基板との密着性を損なわずに溶解度を制御したリン酸カルシウム薄膜の熱処理法を見いだすべく,Ion Beam Dynamic Mixing(IBDM)法を用いてTi基板に厚さ約1μmのリン酸カルシウム薄膜をコーティングした試料に赤外線による急速加熱熱処理を施し,膜の結晶性,溶解性,密着性を検討した。その結果、1.膜の結晶性は,熱処理を行わない試料は非晶質様のブロードな回析パターンを示したが,600℃以上の急速加熱で結晶性を示し,主にHydroxyapatiteが同定された。2.コーティング膜の溶解性を擬似体液に浸漬すると,(1)熱処理を行わない試料および400℃に急速加熱試料では,1週間以内の浸漬で膜のほとんどが消失し、500℃の急速加熱試料は不均一な溶解現象を示した。また、熱処理を行わない試料の膜の消失はカルシウムイオンの放出を伴った溶解であることがが確認された。(2)600℃の急速加熱試料は,5週間後で約60%の膜が残存し表面は比較的平坦な様相を呈した。(3)700℃の急速加熱試料は,5週間後でも膜の厚さの減少は殆ど認められず,表面は比較的滑沢であった。(4)電気炉長時間加熱試料および800℃の急速加熱試料は,膜の亀裂・脱落が認められた。3.本コーティング膜のTi基板に対する浸漬前の接着強さは,電気炉加熱および800℃急速加熱試料を除いて,接着した熱硬化性エポキシレジン内での凝集破壊が認められ55MPa以上の引張接着強さを示した。 以上より,コーティング膜とTi基板との密着性を損なわずにリン酸カルシウム膜の溶解性を制御するためには,赤外線加熱のような急速加熱方式により出来るだけ短時間に熱処理を行う必要性が示唆され,溶解性の大きな膜を得るためには600℃以下の低温での急速加熱が,溶解性の小さな膜を得るためには700℃程度の急速加熱が適していることが明らかになった。
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