プラズマスプレー法によってチタンにリン酸カルシウムをコーティングしたインプラント材の弱点を克服するために、Ion Beam Dynamic Mixing(IBDM)法を用いてチタン(Ti)基板に厚さ約1μmのリン酸カルシウム薄膜をコーティングした。その後、コーティング膜を結晶化させるため、電気炉加熱、レーザー加熱および赤外線急速加熱処理を施し、膜の結晶性、擬似体液中における溶解性、膜の密着性、および膜-基板界面の化合物のX線光電子分光分析による検討を行った。また、ラット骨芽細胞を用いた細胞培養試験を行った。 1.薄膜X線回折法により膜の結晶性を検討した結果、熱処理を行わない試料は非晶質様のブロードな回折パターンを示したが、500℃の電気炉加熱および600℃以上の急速加熱で結晶性を示し、主にHydroxyapatiteが同定された。 2.コーティング膜の溶解性、膜の密着性、および界面分析を検討した結果、(1)熱処理を行わない試料では擬似体液1日浸漬で膜が消失した。(2)電気炉加熱加熱では界面でのCa注入層の減少およびTi-P化合物が異常成長することにより膜に亀裂が生じた。(3)レーザー加熱では膜の不均一溶解が生じた。(4)赤外線急速加熱を行うことにより、コーティング膜とTi基板との密着性を損なわずにリン酸カルシウム膜の溶解性を制御することができ、溶解性の小さな膜を得るためには600〜700℃の急速加熱が適していることが明らかになった。 3.チタンおよびチタン円柱側面にリン酸カルシウム薄膜をコーティングした試料を用いて、細胞培養試験を行いSEM観察を行った結果、骨芽細胞の細胞動態は表面性状によって異なり、溶解性の小さな(結晶性の大きな)コーティング膜上で細胞外マトリックス(ECM)の形成を認めた。
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