研究概要 |
ブラキシズムに代表される無意識的な持続的咬みしめは,古くから顎機能異常の有力な原因の一つとして注目され,とりわけ筋の活動性との関連について様々な議論がなされて今日に至っている.しかしながら持続的咬みしめが顎口腔系にいかなる影響を及ぼすかという基本的問題についての解明はほとんど行われていないのが現状であった.そこで我々はブラキシズムの一形態であるクレンチングが顎口腔系に与える短期的な影響を解析する目的で,Hutton et al.が用いた実験手法を応用しあらかじめ学習し,記憶した弱い咬合力を,クレンチング後に視覚的フィードバックなしで再現させた結果,比較的長時間におよぶ誤差発現効果を観察した.またこの効果は,クレンチングの強さのみならず持続時間に有意に依存することを明らかにし,弱いクレンチングであっても持続時間が長いと閉口筋運動ニューロンの興奮性への影響が大きい可能性を示唆する結果を得た. さらに,このようなクレンチングの誤差発現効果における歯根膜受容器の役割を明らかにすることを目的とした実験で,以下の結果を得た.被験者に一定の持続的咬合を維持させた状態下における,上顎中切歯唇面への比較的弱い圧の定量的刺激による加算平均した咬筋の反射性応答は1.早い刺激の立ち上がり時間では顕著な抑制性応答とそれに続く興奮性応答が,比較的遅い場合は主として興奮性応答が誘発された.2.刺激歯周囲の局所麻酔により応答はほぼ消失をした.3.興奮性応答は背景活動レベルが高くなる程増大することが明らかとなった.4.25%M.V.C-60秒間クレンチング前後における応答に有意な変化は観察されなかった.これらの結果から,歯根膜受容器由来の咬筋に対する反射回路は,それ自身がクレンチング後の効果に関与する可能性は少ないが,閉口筋運動ニューロンに対する促通効果を有することが明らかとなった.
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