研究概要 |
In vitroでバイオマテリアルの細胞毒性試験を行う場合に,材料が用いられる環境に近似した環境である唾液をモデルとした細胞毒性試験を目的として,人工唾液とヒト安静唾液の2種類と組織モデルとを組み合わせて補綴材料に対する細胞回復度を調べた.歯科用金属材料8種,すなわちAu-Ag-Pd合金(以下KP),Ag-In-Zn合金(S1),Ag-Sn合金(S2),Ti(TI),Co-Cr合金(WC),Ni-Cr合金(DM),Ni-Cu合金(FC)およびCu(CU),ならびに常温重合レジン2種,加熱重合レジン1種を調べた.実験方法として,組織モデルならびにGin-1細胞を用いて人工唾液2種またはヒト安静唾液をDMEに50v/v%で混合した培養液で作用させ,48時間細胞回復させて呼吸酵素活性阻害を比色定量した.その結果,金属材料ではいずれの培養液でもTIは最も大きな細胞回復度を示した.WC,KP,S1は中等度の細胞回復度,DM,FC,CUはいずれも小さな細胞回復度であった.レジン材料では試料形態によって細胞毒性に差が認められた.培養液に硫化成分を添加した影響については,いずれの試料においても無添加のものと比較して細胞回復度が低下する傾向が認められた.また,唾液因子を添加した培養液の細胞回復度の結果は純粋な培養液の場合と比較してバラツキが若干大きかった.これらの培養条件ではpH緩衝能が低いために試料成分の溶出も不安定であったためと推測される.本研究は唾液の特長ある要素を加味した組織培養液下で補綴材料の腐食,溶解や咬摩耗などの物理化学現象について,従来より適切に表せ得る唾液モデルの確立を目指した.唾液因子を添加した条件において,細胞毒性が従来の結果とは必ずしも一致しなかったことは,口腔内の硫化による影響もin vitro細胞毒性の研究には是非考慮されるべきであることを示唆する成果が得られた.
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