本研究の最終目的は″循環系偶発症の危険度予測を可能にするモニターの開発を、心拍変動のカオス解析を用いて行うことにより、循環系合併症をもつ高齢者の安全な歯科治療を実現すること″である。そこでまず、カオス解析に関する基礎的検討を行い、その結果を用いて以下に記述する2つの結果を得、日本歯科麻酔学会総会において発表した。 結果1 加齢による循環制御系の変化について、PR間隔ゆらぎのカオス解析を用いて検討した。 健康な高齢者と若年者のPR間隔ゆらぎから、(1)PR間隔とCVRRの平均値の推移、(2)パワースペクトル、(3)3次元アトラクタ、(4)相関次元の4項目を求め、比較した。 その結果、高齢者群の3次元アトラクタは若年者群に比較して小さかった。CVRRは高齢者群は若年者に比較して高い傾向を示した。低周波数成分の絶対値は、若年者群が高齢者群に比較して有意に高かった。相関次元は両群間で差はなかった。 以上より循環制御系の複雑さは加齢による影響を受けにくいが、制御の振幅は小さくなるものと考えられた。 結果2 高齢者の歯科治療における不整脈の発生予測を目的として、不整脈から心電図RR間隔ゆらぎを求めカオス解析(3次元アトラクタおよび相関次元)を行い、その可能性について検討した。 その結果、正常心電図ではアトラクタは長楕円形で、相関次元は比較的高い次元が推測された。 これに対して心房細動、強い呼吸性不整脈、多発性の心室性期外収縮、および長周期の変動を伴う洞性徐脈などの不整脈の3次元アトラクタは、それぞれ特異的なトラジェクトリーを描き、推定された相関次元も異なっていた。 以上の結果から、不整脈の種類によりアトラクタは異なり、各不整脈発生機序の差異に関連している可能性が考えられた。従って、心電図RR間隔ゆらぎのカオス解析は高齢者の不整脈予測の一手段となる可能性があると思われた。
|