1.音声ディジタルフィルタ、音声ディジタルスペクトルエディタ、ホルマント型音声合成プログラムを用いて音声聴取実験用録音テープを作成し、口蓋裂児と機能性構音障害児各5例に対して聴取実験を行った。その結果、フォルマントを加工した母音の同定実験では両群に差は認められなかった。また、声門破裂音との弁別能力をみるためにVOTを長時間としてアタックの強い音を提示しても母音として聴取していた。摩擦子音の周波数分布を加工して標準音を次第に歪ませていくと、口蓋裂児では少ない歪み量で異常と判定した。 2.当科で二段階口蓋形成手術を行った唇顎口蓋裂児のうち構音障害例58例について臨床統計的な観察を行った。その結果、4歳頃までの早期の鼻咽腔閉鎖機能不全の程度によって発症する構音障害が相違しており、機能不全が比較的重度の場合には声門破裂音が、軽度の場合には口蓋化構音が発症していた。口蓋化構音は一段階手術例に比較してきわめて良好な顎発育がみられたにも関わらず、二段階例で増加していた。以上から、口蓋化構音は従来より説明が試みられているような上顎形態の異常によって生起するのではなく、鼻咽腔閉鎖機能不全が関与している可能性が考えられた。 以上の二つの検討から、口蓋裂児に特有な構音障害の発症原因については、鼻咽腔閉鎖機能不全の関与が大きく、音声弁別能力の低下という要因は少ないと考えられた。また、機能性構音障害児では音声弁別能力が口蓋裂児に比し低下していると考えられた。今年度の実験方法では知的能力、ないし、言語学習能力との相関を求めなかったこと、検者が機器に熟練していないために実験に使用した子音の種類が少なくなった等の方法的な問題があったため、次年度以降の検討課題とする必要があった。
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