1.音声ディジタルフィルタ、音声ディジタルスペクトルエディタ、ホルマント型音声合成プログラムを用いて音声聴取実験用録音テープを作成し、口蓋裂児と機能性構音障害児各5例について構音障害治療前後で聴取実験を行った。これら症例では知能、および、言語能力に異常はなく、聴力も正常であった。その結果、フォルマントを加工した母音の同定実験では両群とも構音治療前後で差は認められなかった。摩擦子音の周波数分布を加工して標準音を次第に歪ませていくと、構音治療前では口蓋裂児では機能性構音障害児に比し少ない歪み量で異常と判定していたが、構音障害治療前後では両群に差は認められなかった。このことから、口蓋裂児においてはこの能力が構音障害の原因とはなり得ないと考えられ、機能性構音障害児とは異なっていた。構音障害治療後では両群間に差が認められなくなることは訓練により音声弁別能力が向上したためと考えられ、構音障害治療における耳の訓練の重要性が示唆された。 2.上記における口蓋裂児について構音障害の種類により声門破裂音群と口蓋化構音群に分類し、実験用録音テープの聴取実験結果を検討した結果、両群に差は認められなかった。口蓋裂児において異なる構音障害が発症するのは音声弁別能力に由来するとはいえなかった。昨年度の研究結果を加えて考察すると、鼻咽腔閉鎖機能の状態、および、当機能を獲得する時期によって構音障害の種類が異なると考えられた。
|