気管内挿管を行った状態で頭位を回旋させたときに、気管内チューブが声帯に対してどのような影響を及ぼすかを検討した。鼻腔、口腔から気管までの気道の形態を、MRIを用いて正面位、頭位回旋位について観察した。MRIで得られた画像を基にアクリル板を用いて気道の実物大模型を作製し、気管内チューブを挿管して、声門部にかかる圧を測定した。次に、体重10〜15kgの雑種成犬を用い、全身麻酔下に気管内挿管を行い、模型上で得られた最も高い圧(50mmHg)と、その1/2で毛細血管平均圧に相当する圧(25mmHg)で気管内チューブを片側の声門に圧迫し、声門部の粘膜の肉眼的変化および微細的変化を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、頭位回旋時には回旋方向と反対の方向の声門が気管内チューブにより圧迫され、その圧は気管内チューブの種類、太さによって異なることがわかった。さらに、犬の声門部における形態的変化として、肉眼的には25mmHgの圧では6時間後に、50mmHgの圧では2時間後に披裂軟骨声帯突起部に粘膜の発赤が認められた。声帯粘膜には肉眼的変化はみられなかった。走査型電子顕微鏡で観察した喉頭の微細的変化は、披裂軟骨声帯突起部では25mmHgの圧の1時間後より、また声帯粘膜においては2時間後より観察された。以上のことから、肉眼的変化が生じるよりも小さい圧で、また短時間の間に微細的変化が発生しており、頭位を回旋するときの気管内チューブの選択には細心の注意を払う必要があることが明らかとなった。
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