研究概要 |
ヒトに感染する8種類のヘルペスウイルスのうち,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)による感染症は口腔領域で最も頻度の高いウイルス性疾患である.HSV-1感染における細胞性プロテインキナーゼの関与についてはいまだ十分研究されていない.本研究では,各種プロテインキナーゼ阻害剤を用いてHSV増殖に及ぼす影響につき検討した.Vero細胞でのHSV-1の増殖,一部ウイルス蛋白の合成は,10μMのプロテインキナーゼC特異的阻害剤H7にて抑制された.プロテインチロシンキナーゼ(PTK)阻害剤としては基質拮抗型の合成阻害剤チルホスチンを用いて検討した.3種類のチルホスチン1,9,47のうち9で最も強いHSV-1増殖阻害作用が認められ,そのID_<50>は40nMであった.PTKを阻害しない化合物であるチルホスチン1は,HSV-1増殖に影響を及ぼさなかった.^<35>Sメチオニンならびに^<32>Pの取込みにてウイルス蛋白の合成とリン酸化を検討した結果,ウイルス蛋白ICP6,11,17/18,19/20,25,29,33,39でリン酸化が確認された。そのうち,抗ホスホチロシン抗体との反応で,ICP17/18,19/20,25が主要なチロシンリン酸化を受けるHSV蛋白であった.チルホスチン9処理にて,蛋白合成ならびに蛋白リン酸化が抑制されたが,ICP19/20が最も強く影響を受けた.この蛋白はわれわれが作製したUL47遺伝子産物に対する抗体との反応性を示すことから,UL47遺伝子産物であるVP13/14蛋白に相当することが判明した.HSV-1には少なくともウイルスに特異的な2種類のプロテインキナーゼが知られている.HSV蛋白のin vitroでのリン酸化反応に対してチルホスチン9による影響がみられなかったことから,チルホスチン9にはHSV-1プロテインキナーゼ阻害作用はないものと思われる.チルホシチン9は細胞性酵素を介してウイルス蛋白リン酸化に影響を与えるものと考えられる.
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