平成7年度は、当科で体系的に行っている治療法を適応し、術後6か月以上経過した口腔癌87例について、術後の口腔機能、特に日本語100音節発語明瞭度検査を施行し、また、日常生活状況に関するアンケート調査(言語、経口摂取機能の自己評価を含む)の解答結果を点数評価して“満足度"を算出した。その結果、われわれが開発したこれら体系的治療法は、成績の向上のみならず、術後のQOL(言語機能や経口摂取機能)の向上にも寄与している可能性が示唆された。これらの結果に基づいて平成8年度は、口腔癌の中で術後のQOLに最も影響を及ぼすと考えられる舌癌42症例について、原発巣切除範囲別に詳細に検討した。 (1)舌癌42例の発語明瞭度の平均は85.7%と良好であった。これら舌癌42例を舌癌の原発巣切除範囲を悪性度が低く、induction chemotherapy後の腫瘍の大きさから10〜20mmに設定することで、初診時に想定した腫瘍の切除範囲より明らかに小さくできたA群22例と悪性度が高く、induction chemotherapyによる臨床効果が少ないため、初診時の腫瘍の大きさを想定して切除範囲を設定したB群20例についてみると、B群に比較して明らかにA群の発語明瞭度は高い結果であった。 (2)経口摂取機能に関しては、舌癌42例の平均が4.62と良好であったが、A群の平均4.68、B群の平均4.55であり、A群の経口摂取機能が良い結果であった。 (3)アンケートによる日常生活状況の満足度は、舌癌42例の平均が81.0%と良好であったが、A群では腫瘍の大きな症例でも満足度はさらに高い傾向を示していた。 以上の結果から、口腔癌とくに舌癌症例では、われわれが行っている体系的治療法は患者の術後QOLを考慮した治療法であることが示唆された。
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