本研究は、口腔癌患者98例を対象に、各症例ごとに体系的に行っている臨床病理学的悪性度(悪性度)の評価およびinduction chemotherapyによる臨床的効果に基づく手術法すなわち腫瘍原発巣の切除法が、患者の術後機能(言語・経口摂取機能)にどのように反映しているかを解明し、術後機能を考慮した手術法開発の一助とする目的で行った。すなわちこれら体系的治療を行った患者の原発巣の切除方法と術後機能(日本語100音節発語明瞭度・経口摂取機能)および日常生活状況に関するアンケート調査による満足度との関連について検討した。その結果、低悪性で、induction chemotherapyによる化学療法効果著効例に適応した原発局巣所切除例では、発語明瞭度、経口摂取機能および日常生活における満足度のいずれも十分な術後機能を有しており、部分切除症例の中でも、化学療法後の腫瘍の大きさから切除範囲を設定した症例の術後機能は良好であり、悪性度と化学療法効果に基づいて切除法を決定するこれら体系的治療法は、術後機能を考慮した治療法であることが示唆された。また、舌癌42症例について、切除方法と術後機能との関連をさらに詳細に検討した。その結果、悪性度が低く、化学療法効果が認められたために、初心時に想定した切除範囲より明らかに縮小できたA群22例と悪性度が高く、化学療法効果も少ないために初心時の腫瘍の大きさを想定して切除範囲を決定したB群20例の発語明瞭度の比較では、明らかにA群の発語明瞭度が高かった。経口摂取機能に関しては、A群、B群いずれも良好な結果であった。アンケートによる満足度では、舌癌42例の平均が81.4%と良好であったが、初心時の腫瘍の大きさが40mm以上のA群でも、満足度の比較的高い症例が多く認められた。 以上の結果から、これら悪性の程度とinduction chemotherapy後の化学療法効果に基づいて切除範囲を決定する体系的治療方法は、患者の術後機能を最小限にすることが可能であり、術後の患者のQOLの向上に十分寄与しているものと考えられた。
|