シェ-グレン症候群の疾患モデルとしてNODマウスを用い唾液線機能を検索した.NODマウスは刺激時唾液分泌量低下と分泌蛋白の合成能が低下しており、この唾液腺機能障害は慢性のリンパ球浸潤と細胞破壊による自己免疫病理によることが示唆されている.今回、この唾液腺機能低下のメカニズムをさらに詳細に検討した.検討は、NODマウスを糖尿病発症群と非発症群とに分け、Balb/cマウスをコントロールとしておこなった. 1.NODマウス唾液腺のムスカリン刺激に対する細胞応答の変化 (1)cAMP活性の低下(2)イノシトールリン脂質代謝の減少 (3)muscarinic receptor densityの減少(4)血清中の抗レセプター抗体の検出などの結果から自己免疫疾患における唾液腺機能低下の原因の少なくともひとつは、細胞表面の蛋白に対する自己抗体の形成によることが示唆された. 2.ニューロペプタイドに関する検討 (1)substance P、vasoactive intestinal polypeptide、neuropeptide YなどのニューロペプタイドはBalb/cではピロカルピン単独投与より分泌量を増加させたが、NODマウスではこの増強効果がなかったこと(2)NODマウス唾液腺組織中のニューロペプタイド濃度が低下していることなどの結果から、NODマウスの唾液分泌機能の低下は唾液腺の神経刺激全般に対する細胞応答低下に起因するものであることが示唆された. 3.Insulin-like growth factor(IGF)に関する検討 (1)マウスの血清中にはIGF結合蛋白(IGFBP)を検出したが、糖尿病を発症したNODマウスの血清IGFBPは量が増えていた.一方、唾液中ならびに唾液組織中にはIGFBPは認めなかった(2)IGFの胃内投与による全身組織への分布は、血清中には糖尿病発症NODがBalb/cより高値であったが、各臓器の濃度は腎を除いてBalb/cの方が高かった.以上のことから、唾液から産出されるIGFは、唾液のIGFBPの存在なしに胃から吸収され各組織に分布することが示唆されるとともに、NODマウスでの組織移行の悪さにIGFBPの関与が推察された.
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