ラットの長管骨から得られたBMPおよびTGF-βを含む水不溶性の画分(以下G-WI)を滅菌生理的食塩水と混和し、ラット上顎第一臼歯近心根管口部に置き、術後1週から3週と経時的に組織学的に観察した。 術後1週目では歯髄切断面から根管歯髄の内部まで炎症系の細胞浸潤がみられ、象牙芽細胞の萎縮、消失がみられた。術後2週目では歯髄切断面に庇蓋硬組織の形成はみられず、歯根部象牙質壁に沿って、血管や骨芽細胞様の細胞などが封入された骨様硬組織の形成が観察された。また、歯髄組織においては血管の新生がみられた。術後3週目になると骨様硬組織はさらに形成され、根管内を閉塞した。以上の結果よりラット長管骨より抽出し、分画したG-WIは、in vivoでラット皮下に骨を誘導するが、歯髄において、直接象牙質を誘導することはなく、骨様硬組織を誘導することがわかった。また、皮下における場合と異なり、歯髄内では軟骨を経ずに石灰化している様子が観察された。 当初、歯髄に対してBMPやTGF-βがどのような作用をするか、皮下と同じように骨を誘導するのかそれとも象牙質を誘導するのか興味ある点であった。今回の研究により骨誘導能を持つG-WI(BMPやTGF-βを含む分画)は歯髄において骨様硬組織を形成し、象牙質は形成しないことがわかった。すなわち、G-WIは歯髄の細胞を象牙芽細胞に分化させるのではなく、骨芽細胞に分化させると考えられる。また、術後3週目では骨様硬組織が固有の歯髄細胞に代わり、根管内の大部分を占めていた。これはG-WIが強い骨誘導機能を持つことが想像され、その量の加減によりにより適度な庇蓋硬組織の形成を促すことも可能であると考えられた。
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