研究概要 |
末梢性下顎運動制御に果たす歯根膜受容器の役割は大きく、成人や成熟動物を対象とした実験系により神経生理学的にかなり詳細に解明されてきている。しかしながら、歯根の吸収・形成に伴う変化については、いまだ不明な点が多い。ヒト小児を対象とした研究では、児が検査者の指示に従えないため、口腔内から誘発される反射様相を観察することはこれまで困難であった。そこで今回、歯に振動刺激を加える新たな刺激方法を用い、被験児の協力度に影響を受けない実験系を考案した。被験児にバイトブロックを咬合させ、弱い筋活動が咬筋に認められる状態で、24-96Hzの機械的振動刺激を上顎乳中切歯に加えると、振動に対応して強い抑制反射とそれに引き続く筋活動興奮性の回復が観察された。刺激頻度が高くなると、刺激と筋活動変化の対応は不明瞭となった。刺激方向は、唇側から舌側へ、舌側から唇側への2方向としたが、反応は類似していた。また、歯根の吸収程度をデンタルエックス線写真で確認し、歯根膜咬筋反射の出現様相との関連を調べたところ、歯根全長がほぼ吸収完了する時点まで、歯根膜由来の咬筋への反射は残存し,大きく変化しないことが明らかとなった。臨床的には乳歯歯根吸収がかなり進行しても、動揺度が大きくならず、咀嚼が可能である。乳歯が歯としての機能を果たしている間は歯根膜からの反射性調節機構が残存している可能性が示唆された。 あわせて小児の顎運動機能の成長に関するいくつかの研究を行い、小児の吸啜から咀嚼までの発達様相を総合的に評価することができた。なお、永久歯歯根形成に伴う歯根膜咬筋反射の変化については、動物実験にて形成中の永久歯歯根への振動刺激が侵害刺激でないことを明らかにした後、再検討する予定である。
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