研究概要 |
本研究ではStreptococcus mutansの各種の病原因子の中デモPAcに着目し、まず本蛋白質をコードする遺伝子(pac)の上流1.5kbおよび下流4.2kbの部分について塩基配列を決定した。この結果、上流、下流それぞれにはORF1およびORF2の2つのopen reading frame(ORF)が認められた。これらのORFにエリスロマイシン耐性遺伝子を挿入して不活化してもPAcの発現レベルに影響は認められないことから、PRF1およびORF2のいずれもPAcの発現調節には関与していないことが示唆された。ノーザンブロット分析によってpacの転写単位の解析を行ったところ、ORF1、pac、PRF2のmRNAの転写はそれぞれ個別に行われていることが明らかとなり、プライマーエクステンション分析の結果からpacのmRNAの転写開始点は開始コドンから49bp上流のGであることが明らかとなった。そこで、Xc株由来のPAc低発現変異株であるXc100L株についてpacのプロモーター領域の塩基配列を決定し、Xc株の同部位の配列と比較したところ完全に一致していた。 これらの結果からPAcの発現調節には染色体上の遠位の位置して作用を及ぼす因子が関与していることが強く示唆された。さらに、他の病原因子遺伝子(Gtf-IをコードするgtfB,Gitf-SIをコードするgtfC、水溶性グルカン合成酵素をコードするgtfD、フルクタン合成酵素をコードするftfの発現レベルをノーザンブロット分析を用いてXc株とXc100Lで比較したところ、Xc100L株ではpacだけでなく他の病原因子遺伝子であるgtfB、gtfC、gtfD、ftfの発現レベルも変化していることが明らかとなった。またこのことは、CATアッセイにより定量的に確認された。 以上の結果から、S.mutansには各種の病原因子遺伝子の発現レベルを総合的にコントロールする遺伝子発現調節機構が存在すると考えられる。今後は、この調節機構に作用して病原因子の発現を抑制するような化学製剤の開発の目指して研究を続けて行く予定である。
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