研究概要 |
アミノ酸のラセミ化反応(D-アスパラギン酸)による年齢推定法は、化学反応を利用したもので、客観的でもっとも優れた検査法であると考えます。従来よりもさらに確実な年齢推定法にするために、いろいろな環境下に歯を放置した場合の影響について検討しました。8年度はpHによる影響について検索したところ、pH9の環境下で歯(象牙質)のラセミ化反応速度がもっとも速く、ついで水、pH4の順で、アルカリ性で速く、酸性で遅いことが認められました。しかしながら、実際(15℃の環境下)の年齢推定にはほとんど影響がみられず、死亡時の年齢が算出されるようでありました。一方、実際の鑑定例では歯がピンク色に着染している現象が時々みられます。この場合、通常の方法では、年齢が低く推定されることがあります。しかし、資料を粉末化し洗浄すると実際年齢に近い値が算出される知見が得られました。また、D-アミノ酸は代謝のゆるやかな組織に存在することが報告されています。しかし、一般の組織における存在の有無を知ることも重要と考えます。しかしながら、D体が実際に検出されてもそれが実験過程で生じた可能性も考えられます。そこで、がん組織に着目しました。がん組織(悪性腫瘍)はその特徴として正常組織より過剰な代謝が起こり、増殖、発育する疾患です。このため、D体が正常組織よりがん組織で低値ならば一般の正常組織にもD体が存在している証明になると考えた次第です。そこで、6個体から正常組織および悪性腫瘍の肝臓、膵臓、肺臓、甲状腺および心筋、合計11組(22例)の組織片を摘出し、そのアスパラギン酸残基のラセミ化率(D/L比)を求め、その差がみられるか否か比較したところ、少数例でありますがすべての症例で腫瘍組織で低値が認められました(t_<(10)>=4.8,P<0.001)。このことから、一般の組織にもD-アミノ酸の存在が明らかに認められました。
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