アミノ酸のラセミ化反応を利用し、従来より正確な歯(象牙質)からの年齢推定法を確立するため下記の実験を試みた。 1.ピンク歯について:実際の鑑定例では歯がピンク色に着染している現象が時々みられます。これは歯髄中の血管よりヘモグロビンが象牙質中に流出し、ピンク色に着染して見える現象です。とくに、縊死、轢死および溺死体などにみられます。この場合、通常の方法では、年齢が低く算出されることがあります。しかし、資料を粉末化し何回か洗浄すると実際年齢に近い値が算出される知見が得られました。 2.加熱の影響:ラセミ化反応は環境に左右され、とくに温度に強く影響されます。このため、D/L比は実際値より高く検出され、結果的に推定年齢も高く算出されることがあります。しかし、焼死体で加熱された歯では、D体の量が多い酸可溶性ペプチド(非コラーゲン性蛋白質)を用いると、ほぼ正確に年齢を求められることを明らかにしました。これはラセミ化反応が可逆一次反応のため、D体が増加するとD体からL体に変換されるアミノ酸も増えるためと思われます。 以上、歯からの年齢推定に関する所見が得られ、ラセミ化法の信頼性をさらに高めることが出来たものと考えます。
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