[目的]歯を矯正的に移動すると索引側の歯根膜と代償性骨添加の生ずる圧迫側の歯槽骨の骨膜では、骨芽細胞が活性化され類骨が形成される。そしてここにカルシウム(Ca)とリン酸(Pi)が運ばれリン酸カルシウムの沈着が生じ、新たな骨が形成される。しかし、この骨形成時のCaやPiがいかなる形で輸送されるのか、またどのようにその濃度がコントロールされているのかなど不明な点が多い。今回、私たちはこのような視点から、まず歯根膜の細胞外free Ca^<2+>に着目し、Ca^<2+>のfluorescent indicatorであるFluo-3を歯を移動中のラットに投与し、その検出を試みた。[材料と方法]実験動物としては12-13週齢のWistar系雄性ラットを用いた。固定式装置により、上顎第一臼歯に約15gの矯正力を適用し、舌側移動を行った。移動7日後、ネンブタール麻酔下で開胸し左心室よりFluo-3を1mg投与した。約1分後にト殺、速やかに上顎骨を採取し、液体窒素下で凍結した。その後OCT compoundに包埋し、凍結ミクロトームで5μmの未固定非脱灰凍結切片を作製し蛍光顕微鏡で観察した。また一部の切片はカーボン蒸着し、electron probe micro-analysis(EPMA)を行った。[結果と考察]歯根膜全体においてCa^<2+>の存在を示す緑色の蛍光がみられた。特に牽引側骨表面の類骨層と圧迫側歯槽骨骨膜側の類骨層に相当して強い蛍光がみられた。類骨のEPMAでもその他の歯根膜の領域と比較して強いCaのピークが示された。圧迫側では破骨細胞と骨とのinterfaceに相当すると思われる部位に一層の細い蛍光が観察された。切片を蒸留水で洗浄して観察すると、歯根膜全体から蛍光は失われ、またEPMAでも強いCaのピークはなかった。以上から、骨形成時の類骨ではfree Ca^<2+>の濃度が上昇しており骨形成部位ではCa濃度を押上げる機構が働いているのではないかと思われた。
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