研究概要 |
本研究は,下顎運動に伴うサル下顎頭表面の局所的な荷重を直接測定する目的で,生体親和性の優れたハイドロキシアパタイト(HAP)焼結体と圧電性を持つチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)焼結体を積層した微小圧力センサーを考案し、試作した。この試作した圧力センサーに,19.6Nまでの種々の繰り返し荷重を負荷しキャリブレーションを行った。また動物実験では,サル下顎頭前上方部にこの圧力センサーを埋め込み,硬食物を与えた時の咀嚼運動中の最大荷重と咀嚼周期を直接測定し解析したところ以下の結論を得た。 1)試作した圧力センサーのキャリブレーションの結果,圧力センサー積分出力と荷重の間には,非常に優れた直線関係(r=0.998)が得られた。 2)動物実験において,硬食物咀嚼運動中での圧力センサー出力を測定した結果,Maximum opening, Chewing, Grindingに相当する各波形群が明瞭に区分されて測定できた。 3)咀嚼の各段階での最大荷重は、Maximum openingで2.05N, Chewinglでは平和0.44N,そしてGrindinglでは平均0.32Nであった。これらの最大荷重は圧力に換算すると各々0.29MPa,0.06MPa,そして0.05MPaに相当した。 4)咀嚼周期の平均は,Chewinglでは約400mscc, Grinding1では約180msecであった。 5)約4秒間の移行期をはさんで測定された波形群は、最大荷重と咀嚼周期から各々ChewingとGrindingに類似した波形群に相当することが判定可能であった。 6)各咀嚼サイクルの最大荷重と咀嚼周期との間には、正の相関関係が得られた。 以上のことから,今回試作した圧力センサーを用いることにより,外科的侵襲を最小限に抑え,サル咀嚼運動中の下顎頭に作用する荷重の時間的変化を直接高い精度で測定することができた。この圧力センサーによる生体内での直接荷重測定法は,顎関節症の病因や顎口腔系の生体力学を解明する方法になり得ることが示唆された。
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