1.歯垢中のフッ素分布の測定方法を、ウルトラミクロトームによる切片作製を利用した層別歯垢試料のサンプリング方法と、歯垢断面積の計測に基づく体積ベースのフッ素濃度測定を組み合わせることにより確立した。この方法は、同時に歯垢中のリンやカルシウムの分布測定への応用が可能であった。また、同一被検査者の同一部位から反復して試料を採取するための着脱式の歯垢採取装置を考案した。 2.この方法を用いた歯垢のフッ素、リン、カルシウムの分析から、研究期間内に以下の知見を得た。 (1)一回のフッ化物洗口(900ppmF:10秒間)前後の歯垢のフッ素分布の分析から、フッ素は容易に歯垢内に拡散し短時間でエナメル質表層に達する一方、長時間歯垢中に停滞せず24時間以内に洗口前の濃度水準に戻る。 (2)フッ化物洗口24時間後の歯垢中のフッ素とミネラルの分布パターンの類似性、および、歯垢中のフッ素、カルシウム、リン量の強い相関から、歯垢中のフッ素とミネラルは相互に関連している可能性が大きい。 (3)フッ素(100ppmF)と同時に尿素(3%)を作用させた歯垢のカルシウムとリンは、フッ素を単独に作用させた場合より有意に高い相関を示し、尿素による歯垢pHの上昇は歯垢内のミネラルに影響すると考えられる。 (4)これらの所見は、通常の歯垢は高いフッ素透過性と低いフッ素保持能を有するが、歯垢のpHやミネラル含有量のコントロールにより、そのフッ素保持能の高まる可能性も示している。 3.今後は、歯垢中のフッ素やミネラル含有量を高めるために調整した洗口液を歯垢に作用させて、その洗口期間中および中止後に採取した歯垢のフッ素、カルシウムおよびリンの層別濃度変化を分析することにより、予防歯科領域で利用可能な歯垢のフッ素保持能を高める手法を検討する予定である。
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