研究概要 |
多量の有機質を含有している象牙質では無機質だけでなく有機質の崩壊も象牙質齲蝕の進行に関連している。このため、有機質の強化は象牙質齲蝕の進行を抑制してゆく上で重要と考えられるが、その効果についてはあまり検討されていない。本研究ではタンニン酸(TA)およびグルタールアルデヒド(GA)溶液浸漬法と紫外線(UV)照射法とを用い,象牙質コラーゲンの強化を試み、強化が象牙質齲蝕の進行に及ぼす影響を明らかにした。最初に、上記の架橋方法の架橋能力を明確にするために牛の皮膚から採取したI型コラーゲンを製膜したものを用い、架橋後、引張試験、膨潤性試験および抗酵素性試験を実施した。次いで、各方法でコラーゲンを強化した象牙質の耐酸性を検討した。 コラーゲン薄膜を用いた実験では、いずれの架橋方法でも架橋時間の延長とともに引張弾性率は大きくなったが、引張破壊伸びは小さくなり、脆くなった。この傾向はUV照射で著明であった。また、TAは、他の2方法と比べると架橋の進行速度は遅かった。抗酵素性はTAおよびGA作用で著明に上昇した。 ウシ下顎永久切歯から採取した象牙質試料を用い、架橋後、酢酸緩衝液により脱灰実験をおこなった。TAを作用した試料の溶出Ca量は少なく、対照群の64〜86%で両群間に有意差を認めた。GA群およびUV照射群では対照群との間で有意差は認められなかった。脱灰前にコラゲナーゼを作用した場合には、未作用の場合と比べ、いずれの実験群においても溶出Ca量は増加した。また、TAの溶出Ca量は少なく、対照群の54〜68%で、対照群やUV照射群との間で有意差を認めた。GA作用では、UVや対照群よりも少ないが有意差は認められなかった。TAを作用した歯面には多量の付着物が認められ、同物質が脱灰を抑制したと推察された。
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