近年、がんをはじめ多くの疾患の原因が遺伝子異常として理解されてきており、変異した遺伝子の認識とその発現の制御は、遺伝子レベルでの新しい創薬手法として発展が期待されている。そのなかでも、1本鎖DNAと2本鎖DNAとの配列特異的な3本鎖DNAの形成により遺伝子発現を阻害するアンチジーン法は、将来、基本的な手法に発展するものと期待されている。しかし、天然DNAでは、2重鎖DNAがホモプリン-ホモピリミジン配列に対しては可能であるが、一般的は配列の2本鎖に対しては形成できないという、本質的な制限がある。そこで本研究では、天然の核酸塩基では3本鎖の形成できない2本鎖DNA配列に対しても3重鎖を形成する人工塩基を開発し、任意の配列での3本鎖形成を実現することを目的とした。 平成7年度にはC-G塩基対に選択的に3重錯体を形成する人工核酸(1)を設計・合成し、有機溶媒中での分子認識機能の評価を行った。その結果、モデル塩基対を用いた検討によって、1はC-G塩基対と選択的な3重錯体を形成することが確認された。平成8年度は1をオリゴヌクレオチドに組み込み目的で、1のデオキシ体の合成と、固相合成での前駆体の合成を行い、さらにこれを用いてオリゴマー(12mer DNA)の合成に成功した。人工塩基を組み込んだDNAの合成において目的のオリゴマー以外に2種類の構造変異体も単離された。これらの人工塩基を組み込んだ3種類のオリゴマーと、天然DNAとの3重鎖形成を検討したところ、従来3重鎖形成の不可能なサイトとされていた、CGサイトおよびTAサイトで選択的に3重鎖を安定化することが見出された。 以上、本研究により開発された人工塩基は、アンチジーン法の適用範囲を一般的な配列の2本鎖DNAに展開するための重要な、認識分子として極めて有用なものと、期待される。
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