生体反応のメカニズムを解明する一環として、[5]チアヘテロヘリセン(I)誘導体をプローブとして、生体高分子ないし生体物質の作る不斉な場のキラリティー認識能力を調べ以下の結果を得た。1.プローブの合成と評価・・I、Iの2-ヒドロキシメチル(II)、2-カルボン酸(III)、及びIIのステアリン酸エステル(IV)を合成した。これらの化合物は、常温では適度な速度で両対掌体(P及びM体)間のラセミ化を起こし、キラリティー認識能力のプローブに適していた。2.ウシ血清アルブミン(BSA)によるIIIの不斉変換反応・・BSAによりIIIもらせん構造が固定される不斉変換反応を起こすが、IIとは異なり、そのキラリティーは左らせん構造のM体であった。3.種の異なる血清アルブミンによるキラリティー認識能力の違い・・9種類の動物の血清アルブミンのキラリティー認識能力をIIをプローブとして調べた。アルブミンとIIの作る錯体の誘起のCDスペクトルは種の違いにより大きく異なり、アルブミンの活性サイトの立体構造の違いが反映されていた。4.ウシ血清のキラル識別能力へのプローブ・・ウシ血清にIIを作用すると、血清中のアルブミンによるIIの取り込みに由来する誘起CDスペクトルが観測され、IIはキラリティー識別のプローブとして血清へも適用可能であった。さらに、この方法で温和な熱処理により生じた血清の僅かな変化をも明瞭に検知できた。5.糖尿病ラットの血清への応用・・アロキサン投与の糖尿病性ラットの血清にIIを加えた試料の誘起CDスペクトルは、正常ラット血清のスペクトルと比べ吸収強度が弱くブロードニングがみられ、病変により血清のキラル識別能力が低下したことが示唆された。6.キラルミセル中での挙動・・光学活性なステアロイルセリンの作るミセルとII〜IVとの相互作用を検討した。いずれのプローブもそのヘリセン部分の反転を遅くして、ミセルの配向性を高める作用を有することが判った。
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