研究概要 |
これまでの複素環の研究は窒素、酸素、硫黄などを中心としたもので、第3週期以降の元素(重元素)から成る複素環の研究は著しく遅れていた。申請者は重元素から成る複素環化合物の新しい機能の発現や医薬品素材としての将来性に興味を持ち、重元素から成る新しい複素環の研究に取り組み、以下の知見を得ることができた。 1.先に,1,4-および1,6-ジリチオ化合物と親電子試薬との閉環により、様々な14、15、16属重元素から成る5および6員環化合物が得られることを見出していた。今回、新たに1,5-および1,6-ジリチオ化合物からそれぞれ1-ベンゾヘテリン類や3-ベンゾヘテロビン類が得られることを見出した。さらに、ここで得られた化合物の構造化学的な特徴や熱化学的な性質を系統的に明らかにするとともに重原子上での新しい置換反応を見出した。 2.本反応系は広い一般性と応用性を持つことが特徴で、コバルタインデンなどの遷移金属化合物の合成にも適用できること、このコバルタインデン類などの類はチオクマリンLやジチオクヌリンなどの新しい合成素子になりうることなどを明らかにした。 3.15族元素から成る化合物はピラミッド構造を取り、そのラセミ化に関して広く興味が持たれていた。今回、15族元素から成る1-ベンゾヘテロール類の不斉酸化により光学活性な3価の化合物やその酸化耐が得られること、その光学純度はPd錯体{Pd[(S)-C_6H_4CH(CH_3)_2N(CH_3)_2](μ-Cl)}_2を利用して決定できること、その反転エネルギーと周期表の上下間に相関性が認められることなどを新たに見出した。 4.これまでリン化合物の遷移金属に対する配位を利用した多くの不斉合成反応が開発されている。最近、上記のPd錯体を用いると、リン、ヒ素、アンチモンなどから成る化合物の光学分割を高率良く行えることを初めて見出した。これらはリン配位子に変わる新しいキラル補助剤として機能すると考え、現在、これらを用いた新しい不斉合成反応の開発を検討している。
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