研究概要 |
ラジカル反応における「立体化学」の制御、特に「不斉合成」は一般に困難とされており、その成功例は少ない。我々は最近、窒素原子上や側鎖にキラル中心を有するN-ビニル-α-プロモアミトが4-exo-trig型環化反応を起こして光学活性β-ラクタムを与えることを見出し、この反応がカルバペネム系抗生物質(+)-PS-5や(+)-チエナマイシンの光学活性体の合成に応用できることを示した。本研究はこのような「不斉ラジカル環化反応」をより一般化しようとするものである。これまでに得られた具体的な成果について以下に列挙する。 1.窒素原子上にキラル補助剤として、(S)-1-フェニルエチル基を導入したラジカル前駆体2-bromo-N-(2-phenyl-2-phenylthio-1-ethenyl)butanamideのラジカル環化反応を行うと、脱硫後(3R,4R)-2-azetidinoneと(3S,4S)-体が約2.7:1の比で得られた。主成績体は(+)-PS-5の重要中間体(2S,3R)-(3-ethyl-4-oxoazetidin-2-yl)acetic acidに導くことに成功した。 2.窒素原子上にキラル補助剤として(S)-1-フェニルエチル基をもつラジカル前駆体(2R,3S)-3-acetoxy-2-bromo-N-[2-(m-methoxyphenyl)-1-propenyl]butamideのラジカル環化反応を行い、得られた4種の立体異性体の混合物(57:21:20:2)のうち主成績体を、現在もっとも注目されている(-)-1 β-メチルカルバペネムの重要合成中間体、methyl (R)-2-[(2S,3S)-3-(R)-1-TBSoxyethyl)-4-oxoazetidin-2-yl]propionateに導いた。 3.窒素原子上にキラル補助剤として(S)-1-(1-ナフチル)エチル基をもつラジカルをもつラジカル前駆体4-bromo-N-[2-(phenylthio)ethenyl]pentamide類の6-exo-trig型ラジカル環化反応を行い、単一の環化成績体ピペリジン誘導体を得た。現在この化合物の絶対配置を決定するべく検討を行っている。
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