細胞とリポソームを接触させることにより細胞の膜蛋白質が直接リポソームに移行することが知られている。この方法を人工膜ワクチンの調製に応用した。本研究では、リポソームの膜物性を変化させ、膜蛋白質の移行量と移行の選択性について検討した。サル腎由来CV1細胞にインフルエンザウイルスを感染させるとウイルスの発芽が無く、細胞表面にウイルス蛋白質が突出してくることが知られている。この感染細胞とDMPC(ジミリストイルフォスファチジルコリン)リポソームをインキュベートしたところ、インフルエンザ抗原蛋白質がリポソーム膜に移行した。この移行の過程で膜が損傷を受けていないことを封入カルセインのもれがないことから確認した。リポソームサイズを変化させた場合、SUV(直径50nmの小さい1枚膜ベシクル)で移行量が最も多かったが、SUV以外ではサイズが大きい程移行量が多かった。また膜をマイナスに荷電させた時、荷電量が大きい程移行量も多かった。しかし膜流動性を変化させたところ、流動性と移行量のあいだには特に相関は認められなかった。以上のことから、膜蛋白質の細胞からリポソーム膜への移行は、膜を損傷させることなく進行することが明らかになった。またSUVと荷電リポソームで移行量が著しく多かったことから、移行には膜の流動性よりも、リポソーム膜の荷電状態や表面構造が支配的であることが結論された。
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