研究概要 |
本年度は、塩酸エピルビシン(E P I)封入リピオドールW/O/Wエマルジョンの急性毒性について検討した。 本研究者等が開発したW/O/Wエマルジョン(WOWE)及び現在臨床で肝動注に使用されているO/Wエマルジョン(OWE)を10週齢のWistar系雄性ラットの尾静脈から投与して、生存日数,剖検後の組織傷害(肉眼観察及び標本の光学顕微鏡観察)について比較検討した。EPI含有及び非含有のWOWE及びOWEについて体積を変化させて投与した。 その結果、OWEを投与したラットは、EPIの有無に関わらず、1.5ml/kg以上の投与で2日以内に死亡した。これらのラットでは投与直後に腹臥位及び不整呼吸を示し、剖検時に肺水腫が観察された。これは、OWEでは油滴が小さく、肺の毛細血管まで油滴が緻密に詰まり、血流が閉ざされ呼吸困難になったためと考えられる。 EPI含有WOWEを2.0ml/kg以上投与したラットでは、7〜9日後に死亡した。これらのラットでは投与4〜5日後より血便,下痢,貧血,流延等の症状を呈し、剖検結果では、胃内の出血や潰瘍、胸腺の萎縮が観察された。以上より、死因はEPIによる衰弱死と考えられる。この胃や胸腺の外観及び組織の変化がOWEではWOWEより低投与量で観察されたことから、WOWEの油滴中にEPIを封入することによりEPIの毒性が軽減されたと考えられる。 EPI非含有WOWEを投与したラットでは、15日以上生存し、組織等に異常は認められなかった。 以上より、本研究者等が開発したWOWEは現在臨床で使用されているOWEより毒性が低く安全であると考えられる。今後は、動物実験により有効性を調べ、臨床応用へと研究を進める予定である。
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