研究期間内に、カチオン性リポソーム法での血清の影響とin vivoへの適用及び塩基性ポリペプチドの遺伝子導入能力について検討した。 カチオン性リポソームによる遺伝子発現量は血清存在化で減少し、10%血清濃度で無添加時の約40%、50%血清濃度で20%まで低下した。トランスフェクション時間を延長すると発現量は増加し、30時間のインキュベーションで通常の方法の3倍の発現量がみられた。細胞毒性は、血清添加により減少し、長時間のインキュベーションは血清無添加の細胞に大きな損傷を与えた。以上のように、血清存在下では遺伝子発現量は減少するものの、毒性の低下など細胞へのダメ-ジを軽減する効果があることが示さされた。共焦点レーザー顕微鏡による観察の結果、血清存在下ではDNA・リポソーム複合体の細胞への吸着量が減少することが低下の主な原因と考えられた。更に、SDS電気泳動によるとDNA-リポソーム複合体にはアルブミンの他、数種類の血清タンパクの結合が確認された。in vivo実験では、ガン組織への直接投与を試みた。ガン内部よりもその周辺部での遺伝子発現が観測された、DNA複合体のガン内部での滞留時間が短いためであると考えられた。今後、更にガン組織での効率的発現のための手法の確立を検討する必要がある。 ポリペプチドとしてポリリシン、ポリオルニチン及びポリオルニチン/ロイシン、ポリリシン/アラニン、ポリアルギニンについて検討した。CATアッセイの結果はポリオルニチン/ロイシン、ポリオルニチン、ポリアルギニンで顕著な遺伝子発現が見られた。しかし、リシンから成るポリペプチドでは発現量は僅かであった。これらのペプチド発現能力には、分子量依存性が見られ、分子量20万のポリオルニチンで最大の発現量を示し、分子量1万では全く発現が見られなかった。アガロース電気泳動によると、DNAの泳動はポリペプチドの添加により濃度依存的に抑制され、DNAとの荷電比が2から4では、泳動されず試料溝に残った。この濃度域での遺伝子発現が確認されており、遺伝子発現には荷電的にDNAの負荷電が中和された複合体の形成が必須であると思われる。更に、蛍光ラベルDNAの形態的観察によると、この領域でDNAはランダムコイル状からグロビュール状に形態が変化しており、遺伝子発現には、DNA-ポリペプチド複合体の形成とその荷電及び形態的変化が必要であることがわかった。今後、アミノ酸組成とトランスフェクション能力の関係について、更に複合体の構造、細胞導入機構などから解明する必要がある。
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