研究概要 |
経皮吸収促進剤の適用によって惹起される皮膚表面構造の微細な変化を立体フラクタル次元として定量化し,吸収促進機構の直接的な解明を行うとともに,高感度な刺激評価法開発の可能性について検討した.これまでの研究を通じて,皮膚表面構造の立体フラクタル次元の測定法を確立した.以下に測定法の概要を示す.オスミウム酸およびグルタルアルデヒドで固定したヘアレスラットの皮膚表面を共焦点レーザー顕微鏡で観察し,Z軸方向に5μm間隔で21枚のスライス像を作成した.これらの画像をスキャナーを介してコンピュータに取り込むことにより,オリジナル画像を等高線図形として再構築した.この図形を立方体で被覆し,図形の被覆に要した立方体の総数をカウントした.立方体の大きさを一辺5μmから50μmまで変化させ,図形の被覆に要した立方体の総数との両対数プロットの傾きから立体フラクタル次元を推定した.なお,解析用コンピュータプログラムを開発し,一連の操作を自動的に行うことができるようにした. 以上に概要を示した解析手法により,未処理皮膚の表面構造の立体フラクタル次元を求めた結果,その値は2.17と推定された.スライス画像の間隔を10μmとしてもこの値は2.16であり,ほとんど変化はみられなかったが,さらに間隔を拡げ図形の解像度を低下させると立体フラクタル次元は有意に減少した.そこでディスプレイ上に再構築される図形の等高線間隔を5μmに固定し,促進剤を適用した皮膚について同様の解析を実施した.皮膚表面を40%エタノールおよび2%エイゾンで6時間処理した場合,未処理皮膚とほぼ同等の立体フラクタル次元を示し,これらの促進剤の適用により皮膚の微細構造が大きく変化することはないと考えられた.一方,2%リモネンで処理した皮膚では,立体フラクタル次元の著しい低下が観察された.これらの知見はエイゾンおよびリモネンがエタノールの共存下で皮膚表面構造に対し明らかに異なる作用を引き起こすことを示唆しており,両化合物間に認められる吸収促進作用および皮膚刺激性の差に密接に関連するものと考えられる.
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